東京キララ社オフィシャルコラム

辻幸雄コラム

辻幸雄

藤井良樹

PROFILE

辻幸雄
1949年10月、岐阜市生まれ。 高校卒業後、地元消防本部勤務。10年ほどで退職後、消防設備業・風俗営業等を経営。 ブルセラショップを立ち上げ、1993年、数百人の現役女子高生をビデオ出演させたとして、職業安定法違反で逮捕。 メディアにより大々的に取り上げられ、社会問題化した。出所直後からビデオ制作再開。以降、逮捕・服役を繰り返し、猥褻界の「帝王」として多くの伝説を残し続けている。

藤井良樹
ルポライター/漫画原作者/編集プロデュース。
■漫画原作『TWO突風!』『ガキ警察』(漫画/旭凛太郎 )
■著書『女子高生はなぜ下着を売ったのか』『キャバ嬢「給与明細」のヒミツ』『新世紀のリアル』(宮台真司・中森明夫共著)
■編集企画/『プリズン・ガール』(有村朋美)『ファイト!』(武田麻弓)、など。

第3回 『ワイセツの基準を教えてくれ』

February 2. 2015 01:13 PM

猥褻するは我にあり ~〝帝王〞辻幸雄の犯と罰~

第3回 『ワイセツの基準を教えてくれ』


わんわんオフィスに
引っ越した直後に警察が。
前に住んでた裏ビデオ業者
と間違えられたみたいです


この1990年における<使用済みパンティを売る店・不思議商事>で撮影したのは、
10人ほどのお客さんの個人的リクエストに応えた完全オーダメイドのソフトな
『着用証明ビデオ』だけでした。
ところがそんな数本のビデオで私は四度目の逮捕をされることになります。
ブルセラ関係では初の逮捕ですね。
実はこのブルセラ絡み最初の逮捕については、これまで誰にも詳しく話したことがありません。

いや別に隠していたわけじゃなくてですね、
あまりに馬鹿馬鹿しい話なのでわざわざ話すこともないと思って話さなかっただけなんです。
まあでもお話ししましょうか。

 

それは不思議商事の店舗引っ越しから始まる話です。
〝使用済みパンティを売る店〞不思議商事は自分で考えていたよりも本当に絶好調でした。
なにせ開店四カ月で月商約四百万円、純利益およそ八割でしたから。
ただひとつだけ、私を悩ませる大問題があったんです。
これだけはどうにも耐えられない大問題。
それはですねえ、ニオい!
使用済みパンツのニオいです。
これが本当にクサい。半端ないクサさなんです。
八畳のワンルームを店舗スペースと住居スペースに半分に区切ってつかっていまして、
住居スペースは倉庫も兼ねていましたから、
営業中も閉店後も寝る時も一日中ずっとニオイに包まれたままでニオイから逃げられない。
私がブルセラマニアで匂いフェチならまだ良かったのでしょうが、
如何せん商売でやっているわけですから耐えられない。
いやでもたとえマニアでもあのニオイの中で暮らし続けるのは無理だと思いますよ。
それで店舗を移転することにしました。
東京の下町、日暮里にいわゆる〝わんわんオフィス〞を同じ建物内で三つ借りたんです。
〝わんわんオフィス〞は入居審査もゆるく、私たちのような商売にとっては便利なんです。
一部屋はおおよそ六畳〜七畳位のワンルームで、それぞれ店舗、倉庫、住居に充てました。
これであのニオイからは少しは解放される、
少なくとも寝る時はあのニオイにうなされることはないと思うとホッとしましたねえ。
そのわんわんオフィスに引っ越して三日目のこと。
まだ引っ越し荷物の荷ほどきも満足にできていないときです。
突然、目白警察署の刑事たち十人ほどが突然に家宅捜索令状を持って現れたんです。
刑事たちは段ボールだらけの室内を見回しながら口々にこう言います。

「ビデオはどこにあるんだ? ビデオは!?」
「は? ビデオってなんのことでしょうか?」
「とぼけるんじゃない! ビデオって言ったらビデオだ! ははぁ、この段ボールの中か!? 逃げようとしてもダメだぞ!」
「逃げるもなにも私は引っ越してきたばかりです」
「嘘をつくな!」
「じゃあどうぞ段ボールの中を見てくださいよ」
刑事たちは勇んで段ボールを開けましたが、その直後、一瞬にして室内は物凄い臭気に包まれました。
「ウゲッ、な、なんだこれは!?」
「女性の使用済みパンツです。私は中古下着屋ですから」
「……他も全部開けるぞ」
「どうぞどうぞ、ただし相当臭いですよ、吐かないでくださいね」

刑事たちは怪訝そうな表情で必死にニオイを我慢しながらすべての段ボールを開けます。
私は『家宅捜索令状』を見せてもらいました。罪状は〈ワイセツ物販売目的所持〉。
警察が裁判所に令状を請求した日付けは一週間前でした。
刑事たちは全ての段ボールを開封し、中身を全て確認したのちに、
最終的に三本のビデオテープとそのビデオテープに関係する書類だけを押収しました。

「おまえ、他のビデオはどこに隠した? この段ボールはダミーだろ!?」
「こんな臭いダミーなんかわざわざ用意しませんよお」
「うるさい! いいか、絶対逃げるんじゃねえぞ!」

刑事たちはそうどなりながらも、明らかに困惑した顔つきでした。
だから私も最後は笑いながらこう言ってやりました。
「逃げねえよお〜、なんで俺が逃げなきゃならないんだよ〜」って。
ええ、私は連行されず、も任意同行も求められませんでした。
刑事たちはそのままの帰っていきました。
つまりですねえ、こういうことだと私は思うんです。
あの〈猥褻物販売目的所持〉の家宅捜索令状は我が不思議商事にではなく、
私の直前にわんわんオフィスに住んでいた人間に対してのものだったんじゃないでしょうか。
たぶん私の前の住人が裏ビデオ業者だったんだと思います。
その裏ビデオ業者は警察の操作の動きに感づいたのか、もしくは偶然かで、
さっさと引っ越して逃げたんでしょう。 
その直後に私が即入居した。
裏ビデオ業者なら裏ビデオのマスターテープを数百本単位で所持しています。
だから刑事たちは盛んに「ビデオはどこだ? どこに隠した?」と言い、
全ての段ボールを開けて部屋中を捜したわけです。
けれど私は裏ビデオ業者じゃあないですから、
そんな何百本ものマスターテープなんか所有していない。
結局、刑事たちが押収していったのはたった三本の着用証明ビデオだけです。
それぞれ十五分ほどしか収録されてない8ミリビデオテープからVHSテープにダビングしただけのものですからね。
あいつら、明らかに、こりゃミスったなぁ~って表情でした。
ホテトル時代のガサ入れとは全然違いましたから。
ホテトル時代に散々ガサ入れは経験してますので、どう考えても妙なガサ入れでしたよ。 
刑事たちも明らかに「あれ~?」「おかしいなあ?」って顔してましたからねえ。
そもそも私を逮捕しようと狙っていたのなら、引っ越し前の日本橋の店舗にガサ入れするはずです。
引っ越しして逃げられちゃあ困るわけですからねえ。
「家宅捜索令状」が請求された一週間前は、
私ははまだ西日暮里のわんわんオフィスにはいないわけですし。
まぁ普通に考えてみて、警察の捜査ミス、失態なんじゃあないでしょうか。
みなさん、警察がそんな単純なミスを犯すはずないと思われるかもしれないですけど、
私の経験から言わせていただきますと案外そうじゃないんですよ。
この後、私は何度も何度も警察のお世話になりますけど、
警察の捜査ってみなさんが驚かれるほどいい加減で間抜けだったりしますからねえ、はい。
ただ、引っ越した先でいきなりこんなことに出くわす私の運の悪さ。
これもまぁ、そうとうなものなんでしょうけどねえ、あははは。

 

裁判官と検察官に
こう言ったんです。
 「ワイセツの基準を教えてくれ」
教えてくれませんでした


だから、この件はもうこれ以上なにもないと高を括っていました。
そうしたら二カ月後くらいに目白警察署生活安全課から電話があったんです。
「押収した物を返却しますから、署まで受け取りにきてください」と。
ええ、行きましたよ。
私にやましいところはないですから、「廃棄してくれ」なんて言いません。
それで目白署まで出向きましたら、刑事が、
「辻、おまえに逮捕状が出ている。ワイセツ物販売目的所持と児童福祉法違反だ」
その場で逮捕されました。
でもまあ別に、「ハメられた!」とは思いませんでしたねえ。
う〜ん、まぁうまくやられちゃったなぁ‥‥という感じですかねえ。
〈猥褻物販売目的所持〉も〈児童福祉法違反〉も押収された三本のビデオに対しての罪でした。
警察の言い分はですねえ、「このビデオは陰部を露出している!」と。
ちょうどその頃、一九九一年は、
篠山紀信が撮影した宮沢りえの写真集とかでヘアヌード論争があったりした時代でした。
でも別に私のそのビデオはアソコの毛を見せるために撮ったわけじゃない。
何度も言いますが、使用済みパンティのおまけとしての『着用証明ビデオ』ですから。
もしアソコの毛を見せるためのビデオなら、もっとばっちり大アップで撮りますよお〜。
私はセコいことは大嫌いですから!
撮るなら撮るで、もう正面から、思いっきり撮るにきまってるじゃあないですか!
だから、そのビデオは、服着たままの女の子がパンツを二枚履き替えるだけ。
それをただ正面から写してるだけ。
それで、パンツ履き替える時に、ほんのチラッとアソコの毛が見えるだけです。
これのどこがワイセツ物なんでしょうか。 
こんなビデオ三本だけで販売目的所持になるんでしょうかねえ。
〈児童福祉法違反〉については、その三本のビデオの一本に出演していた女の子が
「十四歳だったから」というものでした。
警察はビデオテープと一緒に私が女の子たちに書いてもらった三人分の「出演承諾書」も押収していきましたから、彼女たち全員を取り調べたんでしょう。
承諾書には本名や住所、年齢も書いてもらっていました。
みんながデタラメを書いていたら警察も調べきれなかったと思うんですけど、
ひとりだけ本名と本当の住所を書いていたんです。
三人の年齢は十六歳・十七歳・十九歳だったんです。
その中で出演承諾書には「十九歳」と書いていて、実際の撮影のときも「十九です」と言ってた女の子が
実は十四歳の中学二年生だったらしいんです。
その子も嘘をつくんなら年齢だけじゃなくて名前も住所も嘘にすればいいとおもうんですが、
年齢以外は正直だった、あはは。
ちなみに残りの二人の十六歳と十七歳の子たちに関しては書き込んでいた住所が嘘だったようで
警察が身元を確認できなかったようです。
まぁ十六歳でも十七歳でも児童福祉法の対象にはなっちゃうんですけどね。
それで、その自称十九歳で実は十四歳の女の子は身長も高くて、164センチ位ありましたかねえ、
顔つきもとても大人びてて、だから私もてっきり十九歳だと信じていました。
ただこの子は、「私は十九歳のふりをしていました。 
辻さんには十四歳だとは一切言ってません」と正直に証言したみたいですね。
なので、結局、この児童福祉法違反の件に関しては「不起訴」になりました。
まぁ猥褻関連よりは児童福祉法のほうが罪が重いですから、
ある意味助かったとも言えなくはないんです。
でもなぜこの児童福祉法違反が不起訴になったかといえば、
それはあきらかにこの女の子が嘘をついていたため、起訴しても公判が維持できないってのもありますけれども、
もうひとつの罪である<猥褻図画物販売目的所持時>なら起訴して有罪にできると検察が踏んだからですよ。
つまりどっちかひとつで有罪にできれば問題ないって考えなんだと私は思います。
この後も、何度も何度もこういうことがありましたから。
ただ、私からすれば、児童福祉法違反も猥褻物図画販売目的所持の両方とも全く納得がいかないんです。

 

そういことで、私は〈猥褻図画物販売目的所持〉は起訴されてしまいました。
警察の取調べにおいても検察での取り調べのいても、さらに裁判でも、私はこの罪状について全面否認しました。
「私は無罪です」――と。
そして、「あんなビデオのどこがワイセツなんですか?」としつこく問いかけました。
「 ワイセツというなら基準を教えてくれ」――と。
けれども、検察官も裁判官も、なにひとつ答えてくれませんでしたねえ。
私はホテトルで売春防止法で逮捕されたときは二度とも一切否認していません。
ええ、売春は違法行為だとわかってやっていましたから。
ただ、この〈猥褻物図画販売目的所持〉は絶対に納得がいかないですよ。
「そもそも家宅捜索自体が警察の誤った捜査じゃないのか?」
「本当は前の住人が捜査対象だったんじゃないのか?」
――こういう点については訴えませんでした。
警察や検察が自らの非を認めるなんてことはまずあり得ないですから。
争うだけ無駄ですから。
え?
だったら、全面否認せずに罪を認めて、情状酌量を訴えて、
執行猶予を貰う作戦をとるやり方をなぜしなかったか、ですか?
いや、それは無理でしょう。
すでに三度逮捕されていて、刑務所から出てまだ一年もたっていませんでしたから。
その当時、執行猶予がつくめどは前の刑期が終わって五年といわれていてました。
でも現実の判例を見ると、十年はたたないと貰えないともいわれてましたからねえ。
でもですねえ、判決の具合とか、判例とか、執行猶予がどうとか、そんなことはですね、
実はどうでもいいんですよ!
罪状をさっさと認めて、情状酌量を訴えて、罪を軽くしてもらう……
そんな法廷戦術には興味ないんです。
私は反体制的な人間じゃあありません。
国家に刃向おうとか、悪党を気取る気なんて考えも全然ないです。
ただ、自分は後悔するのが嫌なんです。
悪いと思っていないのに、それを認めちゃうのが嫌なんです。
法的に罪を犯していないのに、罪を軽くしてもらいたいだけのために、
罪を認めちゃうのが嫌なんです。
楽になりたいからって、警察や検察や裁判官の言うがままになるのが嫌なんです。
そんなことしたら絶対に後悔します。
だから、闘うんですよ。
罪が軽くなろうが重くなろうが関係ない。
逮捕とか刑務所とか刑期とか、そんなもん、どうだっていいんです。
後悔するくらいなら闘って負けたほうが全然いいんです。
自分に対する後悔、これだけはしたくない。
ただまぁねえ、普通の人ならですねえ、
刑務所に入れられちゃうことを一番後悔するんでしょうけどねえ、あはは。
判決は有罪。
懲役一年四カ月になりました。
裁判の最後、被告人弁論でこう言いました。

「警察も検察も裁判所もヘアーが見えたかどうかなんてことより、
もっと他にやることがあるんじゃないでしょうか」

はい、負け犬の遠吠えですね。
ただ言わずにはおれなかった。
でも控訴はせず、 刑務所へ入くことにしました。控訴しても同じですから。
だったらさっさと服役して、さっさと刑期を終えて、
また次の何かを始めたたほうがいいでしょ。
まぁそういうわけでして、私のブルセラでの最初の逮捕は、
う~ん、なんと言いましょうかねえ、
警察の捜査ミスのガサ入れから始まって、
あんなユルい内容のビデオたった3本で有罪にされちゃったわけです。
あんなビデオ、その後に私が撮りまくった作品から比べれば、
もう、お子ちゃまみたいなものですよねえ。

 

え?
もし、この警察の捜査ミスがきっかけの逮捕がなかったら、
その後に私が何回も刑務所に落ちることはなかったんじゃないのかって?
その後の私の人生はまた違うものになってたんじゃなかったのかって?
いや、それは一切ない。
このことで私の人生が変わったとかは有り得ない。
あのガサ入れがなかった、この逮捕がなかったとして、
それで何かが変わったとすれば、
まあそうですねえ、
私が刑務所に入った回数が一回減っただけじゃあないでしょうか。
服役九回が八回になっただけ。
それだけでしょう。
はい。

<『猥褻するは我にあり〝帝王〞辻幸雄の犯と罰』連載第3回・おわり>
 
【次回予告】
「警察の誤認捜査令状」により四度目の刑務所へ送り込まれてしまった〝帝王〞。
その後の「活躍」も気になりますが、次回では時をプレイバックし、〝帝王〞の十代・二十代を描きます。
ブルセラの帝王・ハメ撮りの帝王になる以前に、日本最大級のホテトルの帝王であったことは今回触れましたが、実はぞれ以前にも辻幸雄は〝インベーダーゲームの帝王〞であり、〝消火器販売の帝王〞でもあったのです。そしてさらにそれ以前は地方公務員でもあったりして――。

次回、連載第4回『ゲーム機・消火器・ノーパン・ホテトルの帝王』にご期待ください

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